4/12 13:04 UP!
出勤4日目〜非日常への誘い(前編)〜
不思議デパートの中はしんとしていた。空間が音を全部吸い取ってしまうのだ。
女子大を卒業し、所謂丸の内のOLになった女は、取引先に送る請求書の文面を何度も読み返し、送信ボタンをクリックすると足早に会社を後にした。午後休を取得して向かうのは、人気のないいつもの裏路地、その先にあるいつもの場所だった。
およそデパートという言葉が表象するイメージとはかけ離れた外観のそこは、地方駅のそばにある雑居ビルという形容がふさわしい。
高層ビルの落とす影がいくつも連なって、その一帯は昼でも尚暗かった。
女の憎むもののひとつが自動ドアだった。
決まって自分の前でぴたりと閉じるそれに何度も頭をぶつけ、恥をかき、その度に世界を呪っていた。
不思議デパートの扉は決まって彼女の前でのみ開いた。世界というものは不思議とうまくできている。
建物の内部は灰色の無機質な空間で、人のいない市役所のように重い空気で満たされていた。女が奥へと進む度に、パンプスがタイル張りの床を弾いてこつんこつんと乾いた音を立てる。出入口の両脇には壁一面にカタログが陳列されており、中年のスーツ姿の男性が熱心にそのうちの一冊を読んでいた。
フロアの中央には両端の壁に届くほど大きな円卓型のレセプションがあった。その中心に制服姿のコンシェルジュがひとりぽつんと下を向いて座っていた。
「お待ち申し上げておりました」
彼はOLの姿を見るなり、すべてを見透かしたような目を向けて微笑んだ。
「あのう………」
「勿論、取り揃えてございます」
そう言うと彼は円卓の下から黒い箱を取り出し、白い手袋で蓋を取り上げ、包み紙を広げてOLの前に差し出した。
およそデパートという言葉が表象するイメージとはかけ離れた外観のそこは、地方駅のそばにある雑居ビルという形容がふさわしい。
高層ビルの落とす影がいくつも連なって、その一帯は昼でも尚暗かった。
女の憎むもののひとつが自動ドアだった。
決まって自分の前でぴたりと閉じるそれに何度も頭をぶつけ、恥をかき、その度に世界を呪っていた。
不思議デパートの扉は決まって彼女の前でのみ開いた。世界というものは不思議とうまくできている。
建物の内部は灰色の無機質な空間で、人のいない市役所のように重い空気で満たされていた。女が奥へと進む度に、パンプスがタイル張りの床を弾いてこつんこつんと乾いた音を立てる。出入口の両脇には壁一面にカタログが陳列されており、中年のスーツ姿の男性が熱心にそのうちの一冊を読んでいた。
フロアの中央には両端の壁に届くほど大きな円卓型のレセプションがあった。その中心に制服姿のコンシェルジュがひとりぽつんと下を向いて座っていた。
「お待ち申し上げておりました」
彼はOLの姿を見るなり、すべてを見透かしたような目を向けて微笑んだ。
「あのう………」
「勿論、取り揃えてございます」
そう言うと彼は円卓の下から黒い箱を取り出し、白い手袋で蓋を取り上げ、包み紙を広げてOLの前に差し出した。
「羞恥正常機でございます。こちらの最新モデルでは、お客様の周囲の羞恥心を正常化いたします。ご使用中はお客様の当たり前が周囲の当たり前と同じになり、恥じらいをお感じになるようなことは起きなくなることでしょう」
※この物語はフィクションです。
※この物語はフィクションです。